ROUTE286

   

286の人々

第0002話
NPO法人おりざの家 理事長 佐藤 宏美さん

1961年生まれ。宮城県山元町出身(長町在住)。NPO法人おりざの家 理事長。「孤食」や生活困窮家庭のこどもを中心とした、多世代夕食の支援を行う。仕事の合間に、マンデリン(オーガニック)でのコーヒーブレイクが日課。
https://www.orizanoie.com
佐藤宏美さんは、山元町から嫁いできて35年。ご近所さんと助け合いながら暮してきたその経験を元に、孤食や生活困窮家庭の子どもを中心とした「多世代夕食」の支援を行う、NPO法人おりざの家を設立しました。「食」へのこだわりや世代関係なく求められている「第3の居場所づくり」の取り組みについて伺います。
-「おりざの家」の支援活動について教えてください。
子どもたちが生きるための基本的な習慣(掃除・洗濯・炊事)を身に付け、体も心も健全で自立した大人へ成長していくことを目的に、2016年9月から「おりざの食卓」という事業をはじめました。
名前を「子どもの食堂」にしなかったのは、食を通した「第3の居場所」を提供したいと考えたからです。「おりざの食卓」は子育ての応援の場。共働きや頼れる親族が近くにいないなど、家族だけの子育てに限界を感じたときには、遠慮なく頼っていただきたいです。家族で補えないことは、ご近所・隣同士・地域で助け合うことが大切だと思っています。
現在は新型コロナウイルスの感染拡大のため、活動拠点である「おりざの家」に集まって食事をすることができていません。その代わりに毎週金曜日、お弁当や食材の配布をしています。

-登録制でサービスを提供されていますが、現在130名ほど利用者さんがいると伺いました。人数分のお弁当を作るのは大変ですね。
もう100%以上の力を出し切って、毎週提供しています!翌日は私の体が使い物にならないほどです。お手伝いはいつでも歓迎しています。
お弁当は段取り80%。当日の詰め方は、本当に段取り命です。大変なことも多いですが
「手作りでバランスの取れた夕食を食べられるのは、とても有り難い」という声をいただくと励みになりますし、使命感を持って取り組んでいます。
-「食」へのこだわりは、お弁当でも欠かせませんね。
もちろんです。「おりざの食卓」で提供していた和食中心の「一汁三菜(いちじゅうさんさい)」での、メニューづくりは変わりません。そして「身土不二(しんどふじ)」や「一物全体食(いちぶつぜんたい食)」を心がけ、季節野菜を地場産のもので余すところなく、感謝していただくことの大切さを伝えていきたいです。
現在はコロナ禍でお弁当とフードパントリーの配布に切り替えていますが、少しでも早く利用者さんと温かな湯気が立つ食卓を囲んで、世代間の交流ができる環境に戻ることを願っています。
このお弁当の配布を通して、新たな気づきもありました。それは「食卓」へ参加するハードルの高さ。それを感じる方にとって「お弁当」は、初めの繋がりとして気軽に利用しやすいツールのようです。さらに、これまで利用困難だった利用者さんとも顔を合わせる頻度が増えて信頼関係を築くことができ、それぞれに抱える困りごとへの対応も可能になりました。

-人としてどう豊かに生きるか。つい忙しさにかまけて、忘れがちになってしまいます。本当に素敵な活動ですね!
恐縮です。(笑)「おりざの食卓」では支援活動をしながら、しっかりコミュニケーションを取ることを怠りません。直接お話しできる機会が少なくなっている中でも「第3の居場所」をなくさないために、こまめにラインや電話・メールで相談をいただき情報提供などを行っています。以前は、共働きの方が子どもの相談をしてくださることが多かったのですが、コロナの影響で金銭問題や家族間の悩み相談が増えています。
この状況を目の当たりにして「居場所を必要としている方は、子どもや子育て世代だけではなく、性別年代関係なく多種多様に対応していきたい。人は一人では生きていけない」と改めて考えさせられます。いま誰しもが求めていますよね、人との触れ合いを。
コロナ禍で利用者さんは右肩上がりに増えていて、世帯では40〜45ほどの登録数です。事態はより深刻化してきているのを肌で感じます。

-居場所機能の充実化を図り、昨年末から新たな取り組みもはじまりましたね。
2021年12月から「おしゃべりサロン」をはじめました。自由にお喋りできるのはもちろん、相談室も併設しています。いまは月1回の開催で、相談室はおひとり様1時間(要予約)。
初回は高齢者や子育て世代の皆さんが利用してくださいました。子どもや親の問題で悩んでいた利用者さんから「近くで気軽に相談ができるから、とても心強い」と仰っていただき嬉しかったです。今後は地域サロンも開催予定なので、これからも積極的に「第3の居場所」増やしていこうと考えています。
また「地域サロン」という企画を季節ごと(年4回)に開催を予定しています。企画から運営まで東北福祉大学の学生さん主体で実施できたらと準備中です。学生さん自身も大いに勉強になると思うので、期待に胸が膨らみます。
さらに来年度は、子ども向けの料理教室「私が作る家族ご飯(仮)」と料理が苦手な利用者さん向けのサービスも計画中。より多くの皆さんに支援活動を知っていただけるように、レシピ本の作成も視野に入れています。

-大学との繋がりは、いつ頃からあるのですか?
東北福祉大学との繋がりは「おりざの食卓」をはじめるときからです。私が個人で料理教室をしていたものを2013年に法人化(この時点ではまだ食事業のみ)。2015年に太白区主催(共賛:社会福祉協議会 太白区事業所)のセミナーを受けて、現在の事業形態になりました。
当時、そのセミナー講師を務めていたのが東北福祉大学の村山くみ先生。村山先生のゼミ生の皆さんが、支援活動の第1回目から見守りボランティアとして参加してくれていて、中には個人的に月1回の調理ボランティアを1年間続けてくれた学生さんもいました。
また地元の高校生もホームページを見て、個人的にボランティアへきてくれています。「母親が働いていて、私は家族のために毎日ご飯を作る担当です」と話していました。
このようにボランティア活動を通して、その人自身の相互扶助機能の向上に繋がるケースもあります。「おりざの家」に集うことで、お互いの課題解決へ並行して理解と助け合いができるので、各々が一歩を踏み出す一助になれていたら幸いです。

-スタッフやボランティアの確保もですが、活動費用の工面も課題とのこと。
年々、活動費用のための助成金申請が難しくなってきている気がします。高額のものは特に。熱い思いは大前提として、専門的な知見や数値も必要なのでハードルが非常に高いです。さらに、助成対象期間が1年間と単発なので、長期的な計画が立てづらいことも問題だと感じています。
日々の活動をしながら申請書を作成しなければならず、支援活動の時間が削られてしまうのは本末転倒です。労力の100%を活動に注ぎたいのに、いつもジレンマを踏んでいます。
それでもセミナーでお世話になった方々に、アドバイスをいただきながら活動を続けられているので、感謝してもしきれません。
-佐藤さんが参加した、セミナーについて教えてください。
私が参加したのは「たいはく★元気っこ応援隊」という、3回連続して受けるセミナーでした。太白区の家庭健康課が主催となり、母子に関する様々な課題共有とその解決策を見出そうと企画されたものです。
要保護児童の登録件数が、仙台市5区の中で太白区が最も多いのはご存知でしょうか。この問題を地域の方々と「なんとかしたい」ということで勉強会を開き、私のほかにも地域の民生委員・児童委員・保育園・児童館関係者が集まりました。
このセミナーではワークショップや情報交換を行い、東京で取り組まれていた「子ども食堂」の映像や資料をもとに、地域で子育てを支援するための課題を共有。私は「子ども食堂」の映像を見たときに、現代の子どもたちを取り巻く食環境が乱れてしまっている現実に、愕然としました。「食」に携わってきた者として、この問題はこのまま素通りできないと思ったのです。
そこで区役所や村山先生に「おりざの食卓」の立ち上げについて相談したところ、快く協力してくださることになりました。いまでも、2ヶ月に1度の会議にきてくださいます。

-それは心強いですね。佐藤さん自身も長町北部地区の主任児童員をされていたとか?
主任児童員は12年間やらせていただいています。結婚を機に山元町から長町にきて35年、地域の皆さんには色々とお世話になってきたので、少しでもお手伝いできることがあればと。
いまも感じることなのですが、太白区はとても広いということ。そして長町駅周辺だけでも道路や線路などで隔てられてしまうと、住んでいる地区以外の方にはサービスの広報や情報提供のしづらさがあります。こうした問題に対しても、課題解決できるよう活動を続けていきたいです。
-佐藤さんのお話から、長町やそこで生活している方々を大切に思っていることが、ひしひしと伝わってきます。
私の嫁家は代々この長町に住んでいました。その当時はお葬式なども自宅で行っていたので、ご近所さんが手伝いにきてくれるのは当たり前でした。そうしたお付き合いの中で郷土料理の「おくずかけ」や糸コンと蓮根だけで作る長町の「白和え」も教わりました。嫁いできたばかりの私には、ご近所さんとのコミュニケーションがとても嬉しかったです。またご近所さんの助けがある中で、子育てもできました。子どもが泣いていると、心配して見にきてくれたりして。若い人たちの中には苦手に思う人もいるかもしれませんが、私にとってはいまも大切な「心の拠り所」です。
そのため「長町に嫁いだ」という感覚がとても強く、「おりざの家」の活動は私を温かく受け入れてくださったご近所さんへの恩返しだと思っています。恩返しのバトンですね。だから大好きです、この町。「甘えていい」と思わせてくれる温かさがあります。

-太白区で仕事をするのに、大切にしていることは?
私の活動のベースは「地元愛」です。長町の人と街が大好きなので、活動をする上でも人とのご縁をとても大切にしています。新しく太白区の住民になった方が「ここにきて良かった」と思っていただけるよう、常に「ウエルカム」の気持ちでお付き合いをしていきたいです。私自身がそのように受け入れていただき、今こうして暮らしていますから…感謝です。

-太白区の子どもたちと「第3の居場所」を必要としている方へ
子どもたちには、いまその時代にしかできないことを存分にやってほしいです!しかし、置かれている環境によっては、それが満足に叶わないこともあると思います。そういったご家庭の方は、気軽に「おりざの家」に頼ってくださいね。
そして生活や仕事のことなどで悩みを抱えている皆さん。そして、子育てやご高齢などで地域との繋がりが持てなくて不安に思っている皆さんも、まずは電話・メールでのご相談をお待ちしています。
-お知らせ
「おりざの家」では現在、新型コロナウイルスの感染予防のため「おりざの食卓」はお休みしています。下記のサービスをご希望される方は、電話・メール・ホームページよりお問い合わせください。完全登録制でのご提供となります。

NPO法人 おりざの家(仙台市太白区長町1-12-14)
[電話]022-249-1625
[メールアドレス]info@orizanoie.com

[お弁当とフードパントリーの配布]毎週金曜14:00〜19:00
[おしゃべりサロンと相談室]第1木曜(※相談室は要予約で、おひとり様1時間)
[スタッフ募集]調理スタッフとボランティアさんを随時募集しています!

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