第00015話
音楽とアートのひろば『アトリエ BISCUIT』主宰 金子 まきさん
- 1979年生まれ。北海道出身、太白区在住。東京藝術大学音楽学部楽理科卒。在学中よりバンド活動で全国を回りながら、ピアノ教室を開業。震災後、太白区へ移住。3年間の保育士勤務を経て、2022年4月に音楽とアートのひろば『アトリエ BISCUIT』をオープン。ピアニスト・アレンジャー、バイオリニストとして幅広く活躍する。2022年7月より「誰もがオーケストラ」を実現する『キャンディオーケストラ』を主宰。指揮・指導を行う。すべてオリジナルアレンジで団員ひとりひとりに合わせてパート譜面を書き下ろすという、前代未聞・唯一無二のオーケストラで注目を浴びている。
- 音の調べを風に乗せ 無限に広がる表現の楽しさを引き出す魔術師
- -まっきゅー先生(金子まきさん)は、いつ頃から音楽に興味を持たれたんですか?
-
音楽に興味を持ったのは、赤ちゃんの頃からです。5歳で作曲をはじめてから、ずっと音楽活動をしています。
音楽の道へ進もうと決意したのは、地元の大学で違う分野に在籍していた頃です。そこでは、学校に馴染めない不登校の子どもたちに「学校に通うのと同等に楽しい経験をさせてあげられたら」と、ボランティア活動をしていました。
実は私も学校や先生の考え方に納得できなかったりした経験があるので、そういう子どもたちに寄り添ってあげられたらと思ったんです。
その活動をする中で、子どもたちとお芝居をつくることになったのをきっかけに「音楽って最高!私は音楽がやりたい!」と地元の大学を辞め、意を決して東京藝術大学の音楽学部楽理科へ進みました。
その頃は北海道から道外に出ることは、海外に行く感覚に近かったので「北海道でも勉強できる機会もあるし、なぜ本州に行かなきゃいけないの?」と、みんなに止められました。
でも「ちょっと海外(道外)を見てみたい」という気持ちもあったんですよ。
音楽学部楽理科は大学創設当初から続く伝統ある科で、「音楽とはなにか?」「この作曲家が作品をつくった背景は?」と音楽を理論的に研究するところで、6分野に分かれていました。私は、口頭伝承で地域に残る世界の音楽を学ぼうと思いました。
- -はじめから、ピアニストやヴァイオリニストを目指していたわけではなかったんですね。
- 私がここに決めたのは、一番いろんな分野の人と関われると思ったからなんです。結局、敢えてなにか1本に絞って極める事はせず「音楽のことをすべて見てみたい」と、貪欲に四方八方あらゆる音楽に首を突っ込んでいました。(笑)
ポップスの世界が好きなので、ライブハウスに行ってはいろんな人とライブをしたり…。大学4年間は本っ当にさまざまな人や音楽との出会いがあり、このときに掻い摘んだ楽器や知識はいまの活動の糧になっています。
大学卒業後はお芝居やライブ活動、ピアニストとして演奏活動やバンド活動もしました。バンドはインディーズデビューをして日本全国見て回りながら、音楽教室の先生もその頃からしています。
「世界中の音楽のエッセンスで、なにかに成るんじゃないか」と、本当にできる限りの経験を積んできました。一貫して言えるのは「どういう風に人々が音楽を楽しんでいるか」を追求してきたということですかね。
大学の卒業論文では、アイヌの伝承的な物語に結び付けて音楽を考察しました。アイヌの人たちの生き方や物事への考え方、音の捉え方とかがマジ素敵すぎなんです。アイヌ語が持つ意味や音も面白くて。
- -私もアイヌ語の「音の響き」好きです!
- 聴覚的に子どもの頃から感じているものがあります。ずっと北海道の風の音を感じながら育ってきて、初めて本州に行ったときに発している言葉が全然違うことにびっくりしました。「これが日本語!ここが日本か!風が、日本語を喋ってる」と思ったんです。(笑)北海道とは全く異なる自然の音や文化がありました。
大学から東京に長くいて、私が北海道で聴いてきた風の音は本州にはないと思い込んでいたけど、宮城の塩竈に行ったときに本州で初めて同じ音が聴けることに気づきました。これは大発見でしたね。(笑)
- -宮城にその一端を感じ取られたんですね!そして現在は太白区に移住され、新天地での音楽活動はどのようにはじめられたんですか?
- 子どもを通わせることになった幼稚園で「お母さんたちのバンドがあったら、楽しいんじゃないかな」と思い、ママたちの音楽隊メンバーを募集したんです。いまも後輩たちが活動を存続しています。
この取材企画で私を紹介してくださった及川さん(NPO法人すんぷちょ 代表)のお子さんが同じ幼稚園に通っていたんです。それで及川さんがサックスをされていたので『ママの音楽隊』に入ってくれました。その出会いを機に、現在も『すんぷちょ』の活動に参加させていただいています。
これまで人の喜びや幸せにずっと関わりたいと思ってきました。それは年齢とともに、変わってきたところもあります。
昔は自分が表現して伝えたいことを音に乗せていましたが、いまはそれよりも「音楽を通して人が幸せになれる時間を共有できたらいいな」と思うようになりました。
多感覚演劇「フェスタ!」
- -喜びや幸せな時間を共有できる場所として『アトリエ BISCUIT』をオープンされたんですね。
- 新型コロナウイルスの感染拡大によって、人との交流を自粛せざる負えなくなった2020年。その頃から子どもたちと歌ったり踊ったり、楽器を弾いたり、ワチャワチャ音楽で交流をしたいと考えていました。
私の原点は「音楽が好き」という前に、人に喜んでもらえることなんです。だから「もっと自分にわがままでいいんだよ」「我慢しなくていいんだよ」と、みんなにも感じてほしいなって。音楽は悲しいときに心を優しく包んでくれるし、楽しいときは一緒に喜んでくれます。本当にいろんな音楽があるけど、いつでも私たちに寄り添ってくれるんです。
ピアノやヴァイオリンを教えていて、日頃から感じていることがあります。特に子どもたちになんですが、もう千差万別だなって。その子が持っているセンスだったり、好きなものや得意なところもみんな違うんですよね。
だからここでは、それぞれの個性や感性に合わせて「音楽の楽しみ方」を提案しています。
- -1人1人に合わせて教えるというのは、なかなか大変なのでは?
- 身体感覚や音楽感覚は、ほんとに人の数だけあるから面白いんですよね。
「ピアノはこう弾かなきゃならない」とか「怪我しないように、痛めないように」と制限は追求すれば無限大にあります。だけど「いまこの時点であなたはなにが楽しくて、何を目指したいか」は、それぞれ設定していいと思うんです。
例えば、楽譜を読むのが苦手なら「まずは楽譜を見ないで、音遊びで楽しもう」とか。指が届かないなら、届く範囲内の音に書き換えて教えてあげたりします。
とにかく、子どもたちには喜んでほしいです。
- -個性の輝きと探究心を見つけてほしい!
- 「スパルタからは何も生まれない」というのが持論。人から強制されることで伸びるものは確かにあると思うのですが、結局自分で「これがやりたい」「どうなっているのか知りたい」と、どんどん前に進んでいくことが大切だと思うんですね。
私はそうした探究心を子どもたち自身に見つけてほしいと思っていて、そうしたきっかけとなる種や素材はいっぱい用意してあります。
「いろんな人がいていい」と、子どもたちが思えるといいですよね。自然体でいられることで、子どもたちは本当に発想豊かになっていきます。
- -音楽の楽しみ方は無限大
- きっかけは何でも大丈夫です。音楽を聴くことが好きな方はいっぱいいると思うんですけど、実際にその音楽と合わせながら、なにかアクションしたり音を出したりして「音楽の中に入ってみることが、こんなに楽しいんだ!」と共感していただける場所が『アトリエ BISCUIT』です。
ハードルが高いと思う必要はありません。どなたでも気軽に音楽を楽しむことができます。私は魔術師なので、楽しみ方の提案はもう本当に無限大!
ぜひ、遊びにきてくださいね。
- -アトリエ情報
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音楽とアートのひろば『アトリエ BISCUIT』
[住所] 仙台市太白区郡山3-1-29
[URL] https://www.studio-forest1122.net/
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